2026/08/09 撮影地:筑波実験植物園
ヒツジグサ(Nymphaea tetragona)はスイレン科スイレン属の多年生浮葉植物で、日本に自生するスイレンです。池、沼、湿地などの静水・緩流水域に生育し、地下茎を底泥へ固定して、長い葉柄の先の葉を水面へ浮かべます。
花は通常白色で、一般的な園芸スイレンより株も花も小型です。和名「未草」は、古くは未の刻、現在の午後1~3時ごろに咲くと考えられたことに由来します。被子植物の初期分岐群であるスイレン目を代表する植物の一つです。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 学名 | Nymphaea tetragona Georgi |
| 科・属 | スイレン科(Nymphaeaceae)/スイレン属(Nymphaea) |
| 目 | スイレン目(Nymphaeales) |
| 和名 | ヒツジグサ(未草) |
| 中国名 | 小白睡莲、四角睡莲 |
| 英名 | Pygmy water-lily / Small white water-lily |
| 分布 | 北半球の温帯から冷温帯。日本、中国、朝鮮半島、ロシア、ヨーロッパ、北アメリカの一部 |
| 花期 | 日本では主に6~9月 |
| 果実の成熟期 | 夏から秋。花後、水中で発達・成熟する |
| 毒性 | 明確な強毒性の記録はないが、自己判断での食用は推奨されない |
| 薬用 | スイレン属の伝統利用例はあるが、本種の十分な現代医学的根拠はない |
| 特徴 | 日本原産の小型スイレン。白花で、底泥に地下茎を張る多年生浮葉植物。被子植物初期分岐群に属し、日本各地で野生個体群が減少している |
分布・生育環境
北半球の温帯から冷温帯に分布し、日本も自然分布域です。池、沼、湖の浅水域、湿地など、流れが緩く、水位が比較的安定し、日当たりのよい淡水環境を好みます。
地下茎と根を底泥へ固定し、柔らかな葉柄を水面まで伸ばします。水の浮力で葉を支え、水面で光と空気中の二酸化炭素を得るため、陸生植物のような太い木質茎を必要としません。
スイレン目は被子植物の進化史で初期に分岐した系統です。木蓮類、単子葉類、真正双子葉類などの大系統より、被子植物の系統樹の基部に近い位置を占めます。
ガガブタ(Nymphoides indica)とは、水底に根を張り、長い葉柄と円形浮葉をもち、水面で咲くという似た姿ですが、ヒツジグサはスイレン目スイレン科、ガガブタはキク目ミツガシワ科です。遠い系統が同じ水環境で似た解決策を独立に進化させた収斂の例です。
日本では湿地開発、池の改修、富栄養化、水位変化、浅水環境の減少により、多くの地域で自生集団が衰退しています。園芸スイレンが多く見られても、各地域のヒツジグサの遺伝的集団と元の湿地生態系が保全されていることにはなりません。
花期と形態
主に6~9月に開花します。長い花柄が水面まで伸び、白い花が単生します。多数の白い花弁と中央の黄色い雄しべをもち、大型園芸品種より小型です。「未の刻」に由来する名ですが、実際の開花時間は天候、温度、光に左右され、毎日同じ時刻に咲くわけではありません。
葉は円形からほぼ円形で、基部に明瞭で深い切れ込みがあります。内部の発達した通気組織は、葉、葉柄、水中組織の間のガス輸送を助けます。地下茎は栄養を貯蔵し、新しい葉と花をつくり、根は底泥へ伸びて株を固定し無機養分を吸収します。
受粉後、花柄の変化によって発達中の果実が水中へ入り、水中で成熟します。種子は水で運ばれ、底泥へ入って適条件下で発芽します。つまり、開花は水面、結実は水中です。
識別の要点は、淡水の池沼、小型円形浮葉、深い葉基の切れ込み、白いスイレン状花、中央の多数の黄色い雄しべです。人工池には多くの園芸スイレンがあるため、小型の花だけで野生ヒツジグサと断定できません。
毒性と保全
明確な強毒性植物としては知られず、通常の観賞や接触に特別な危険はありません。ただし近縁種の伝統的な食用・薬用例を本種へそのまま当てはめることはできず、野生株の採取や自己薬用は推奨されません。日本では利用よりも自生集団の保全を優先すべき植物です。