SPECIES ·

オニバス

Euryale ferox Salisb.

スイレン科 · Euryale

花・胞子の時期

日本では主に7~9月。中国では夏から初秋

原産地

毒性

明確な強毒性はなく、適切に処理した成熟種子は食用となる

特徴

現生オニバス属の唯一種。巨大な円形浮葉をもつ刺だらけの一年生植物。食用種子と長期休眠する種子庫をもち、日本の野生集団は衰退している

KNOWLEDGE NOTE

出典・内容を順次整備

2026/08/09 撮影地:筑波実験植物園

オニバス(Euryale ferox)はスイレン科オニバス属の大型一年生水生植物で、オニバス属で現生する唯一の種です。中国では芡、芡实と呼ばれ、種子の中身は江南地方で「鸡头米」と呼ばれます。

巨大な円形浮葉と全身の鋭い刺が目立ちます。成熟葉は直径1メートルを超え、良い条件では2メートル近くなり、葉柄、葉脈、葉裏、萼などにも硬い刺があります。種子は古くから食用・薬用にされ、加工した成熟種子が芡実です。

基本情報

項目内容
学名Euryale ferox Salisb.
科・属スイレン科(Nymphaeaceae)/オニバス属(Euryale
スイレン目(Nymphaeales)
和名オニバス(鬼蓮)
中国名芡、芡实。種仁は鸡头米とも呼ばれる
英名Fox nut / Gorgon plant / Prickly water lily
分布中国、日本、朝鮮半島、ロシア極東、南アジア、東南アジアの一部など、アジアの温帯から亜熱帯
花期日本では主に7~9月。中国では夏から初秋
果実の成熟期夏の終わりから秋、主に8~10月
毒性明確な強毒性はなく、適切に処理した成熟種子は食用となる
薬用芡実は中国の伝統薬だが、伝統的効能と現代医学的根拠は区別が必要
特徴現生オニバス属の唯一種。巨大な円形浮葉をもつ刺だらけの一年生植物。食用種子と長期休眠する種子庫をもち、日本の野生集団は衰退している

分布・生活史

アジアの温帯から熱帯の一部に自然分布し、中国は重要な分布域、日本にも自生集団があります。湖、池、沼、旧河道、ため池など、流れが緩く泥質の堆積した浅水域に生育します。

種子が底泥で発芽し、根を固定して長い葉柄を水面まで伸ばします。同じスイレン科でも、ヒツジグサはスイレン属 Nymphaea、オニバスはオニバス属 Euryale であり、普通のスイレンの一種ではなく同科の近縁です。

巨大な姿に反して一年生で、毎年主に種子から生活を始めます。秋に植物体が枯れると種子は底泥へ沈んで休眠し、翌年発芽するものと、種子庫に長く残るものがあります。そのため、ある年に姿が見えなくても、環境が変化すると数年後に再び出現することがあります。

中国では種子の利用史が長く、成熟種子を加工した芡実はでんぷんに富み、新鮮な種仁「鸡头米」は季節の食材です。「鸡头」の名は刺のある特異な果実形に由来します。漢字「芡」は古い植物名で、芡粉から料理のとろみづけを意味する「勾芡」へ語義が広がりました。

日本ではかつて本州、四国、九州の湖沼や池に分布しましたが、埋め立て、水域整備、水質変化、富栄養化、浅水湿地の減少で多くの地域から消失・衰退し、保全上重要です。

花期と形態

日本では主に7~9月に開花し、花は紫紅色から赤紫色で水面近くに咲きます。

完全に開かなくても自家受粉できる閉鎖花受粉を行う花もあり、個体密度や送粉条件が不安定な水域で種子を残す助けになります。

幼苗と成熟株で葉形が異なり、成長につれて浮葉は直径1メートル以上、時に2メートル近くなります。オオオニバス類のように縁が高く立ち上がる皿状ではなく、通常は水面へ平らに広がります。表面にはしわと明瞭な葉脈があり、葉裏、葉脈、葉柄、萼、果実外面には硬い刺があります。

長い葉柄の通気組織は水下組織へ酸素を運び、水の浮力で巨大な葉を支えます。根は有機質に富む泥へ固定され、多年生スイレンのように地下茎で越年するのではなく、種子繁殖と底泥の種子庫へ強く依存します。

受粉後は大型の液果状果実を形成し、内部の大きな種子が水中へ落ちて底泥へ沈みます。硬い種皮は長期休眠を可能にします。生活史は、春に発芽、夏に巨大葉を展開、夏秋に開花・結実、秋冬に植物体が枯れ、種子が泥中で待つという流れです。

識別は、巨大な円形浮葉、しわのある葉面、葉柄と葉裏の多数の刺、紫色花、刺のある果実の組み合わせで容易です。

毒性・食用

典型的な有毒植物ではなく、適切に加工した成熟種子には長い食用史があります。芡実の主成分はでんぷんで、一定量のたんぱく質や無機質も含みます。江南地方では新鮮な種仁を煮物、甘味、料理へ利用します。

ただし、植物体には多数の鋭い刺があり、採取・取り扱いでは物理的なけがに注意が必要です。野生集団が希少な地域では採取せず、保全を優先してください。伝統薬としての利用情報は、現代の診断や治療の代わりにはなりません。